チェンソーマン

【姫パイとアキ君】 第1話 出逢い

lite版

「俺はアキ、よろしく」
 こんな子供を連れてくるなんて公安もどうかしてる。
 よっぽど人手が足りていないのだろう。
 まぁ、囮くらいには使えるか。

「アンタ、俺の事なめてんだろ」
「君くらいの子供、秒殺できるよ」

 一丁前に悔しいのか、歯軋りをした。
 悔しいなんて感情は、もう何処かにいってしまった。
 バディが逝く度に、心の一部を持っていかれてる感覚になる。悪魔の契約に似た感覚だ。

「アンタとは、うまくやれる気がしないな」

 私だってそうだよ。
 でもうまくいかない方がいいか。
 どうせ、またすぐにいなくなる。

 今までずっとそうだった。
 同期はもういない。
 私が強いからじゃない。
 私の順番がたまたま最後になっただけだ。

 *

 アキ君との初任務。
 駆除対象はモグラの悪魔。
 モグラってどんなだ。 
 見たことないや。
 モグラが怖い人なんて会ったことないから、おそらくとっても弱いのだろうな。
 悪魔になったら元のモデルが分からない奴も多いから、関係ないか。

「なにそれ?」
「俺はまだ武器を支給してもらえないらしい。まずは自前の武器で成果を出して認めてもらう必要がある」

 彼が持っていたのは大きめの出刃包丁だった。
 正直少し引いた。

「アイツか」
「アキ君は、そこで待ってて」
「いや、俺がやる。アンタこそそこでジッとしてろ」
「……、んじゃあまぁ、任せるね。ファイト」

 あんな雑魚悪魔にやられるようじゃ、この先生きていけるわけがない。
 それに私も楽出来るし良いことづくしじゃん。……一本吸うか。 
 アキ君の手はよく見ると震えていた。
 当然か。ろくに道具も渡されずに、単身で悪魔と対峙しなければならないのだから。
 モグラの悪魔はなんというか、やっぱり雑魚だった。
 それでも、アキ君は死にそうだった。
 何度包丁を刺したところで、モグラには効いてないかんじだった。

 そろそろやるか、とタバコの火を地面に押しつけて消したその目を離した瞬間、アキ君の顔面めがけてモグラの爪が襲い掛かった。

 咄嗟のことだった。
 何も考えてない。

「うぐッ」

 私はアキ君と爪の間に体を無理やり入れていた。
 無意識に幽霊の悪魔を出したので、致命傷は避けられた。

 ドロッ。

 鉄の臭いがした。その後すぐに粘着性のある血液の塊が噴き出た。
 右目と左腕に傷を負った。

「お、おい!」
「あー……」

 ダメだ。
 なんでこんなことに。
 楽をしようとした罰なのか。

「幽霊、アイツを絞め殺して」

 アキ君には見えてない幽霊の手が、モグラの首をへし折った。

「……あっ」

 アキ君の表情を見て気づいた。
 さっき攻撃を喰らった衝撃で眼帯が千切れてしまったようだ。
 アキ君は一瞬たじろいだけど、直ぐに普段の無愛想な顔になった。
 普通の人間がいきなりこの眼帯の下を見たら気を失うか、よくても嘔吐してしまうくらいなのに、アキ君はよく耐えてくれたと思う。

 この子なりの優しさなのだろうか。

 アキ君は何も言わずに着ていた服を脱いで、私の顔を覆うようにグルグル巻きにした。

「……悪かった。俺のせいでアンタが」
「いいよ。それよりこれ、ありがとうね。寒くない?」 
「俺は雪国出身だから、これくらいが丁度いい」

 上半身半裸のアキ君は、なんでもないようにスタスタと歩いていった。

「助けてくれてありがとう。……姫野……先輩」

 思わず笑みが溢れてしまった。
 可愛いところもあるじゃん。

 私は小走りで後ろから先を歩くアキ君に追いつき、肩組みをした。

「……なんだ」
「私たち、仲良くやっていけそうだね」
「……さぁな」

 頭に巻かれた服からは、アキ君の汗の匂いがした。

【第二話に続く】

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