「俺はアキ、よろしく」
こんな子供を連れてくるなんて公安もどうかしてる。
よっぽど人手が足りていないのだろう。
まぁ、囮くらいには使えるか。
「アンタ、俺の事なめてんだろ」
「君くらいの子供、秒殺できるよ」
一丁前に悔しいのか、歯軋りをした。
悔しいなんて感情は、もう何処かにいってしまった。
バディが逝く度に、心の一部を持っていかれてる感覚になる。悪魔の契約に似た感覚だ。
「アンタとは、うまくやれる気がしないな」
私だってそうだよ。
でもうまくいかない方がいいか。
どうせ、またすぐにいなくなる。
今までずっとそうだった。
同期はもういない。
私が強いからじゃない。
私の順番がたまたま最後になっただけだ。
*
アキ君との初任務。
駆除対象はモグラの悪魔。
モグラってどんなだ。
見たことないや。
モグラが怖い人なんて会ったことないから、おそらくとっても弱いのだろうな。
悪魔になったら元のモデルが分からない奴も多いから、関係ないか。
「なにそれ?」
「俺はまだ武器を支給してもらえないらしい。まずは自前の武器で成果を出して認めてもらう必要がある」
彼が持っていたのは大きめの出刃包丁だった。
正直少し引いた。
「アイツか」
「アキ君は、そこで待ってて」
「いや、俺がやる。アンタこそそこでジッとしてろ」
「……、んじゃあまぁ、任せるね。ファイト」
あんな雑魚悪魔にやられるようじゃ、この先生きていけるわけがない。
それに私も楽出来るし良いことづくしじゃん。……一本吸うか。
アキ君の手はよく見ると震えていた。
当然か。ろくに道具も渡されずに、単身で悪魔と対峙しなければならないのだから。
モグラの悪魔はなんというか、やっぱり雑魚だった。
それでも、アキ君は死にそうだった。
何度包丁を刺したところで、モグラには効いてないかんじだった。
そろそろやるか、とタバコの火を地面に押しつけて消したその目を離した瞬間、アキ君の顔面めがけてモグラの爪が襲い掛かった。
咄嗟のことだった。
何も考えてない。
「うぐッ」
私はアキ君と爪の間に体を無理やり入れていた。
無意識に幽霊の悪魔を出したので、致命傷は避けられた。
ドロッ。
鉄の臭いがした。その後すぐに粘着性のある血液の塊が噴き出た。
右目と左腕に傷を負った。
「お、おい!」
「あー……」
ダメだ。
なんでこんなことに。
楽をしようとした罰なのか。
「幽霊、アイツを絞め殺して」
アキ君には見えてない幽霊の手が、モグラの首をへし折った。
「……あっ」
アキ君の表情を見て気づいた。
さっき攻撃を喰らった衝撃で眼帯が千切れてしまったようだ。
アキ君は一瞬たじろいだけど、直ぐに普段の無愛想な顔になった。
普通の人間がいきなりこの眼帯の下を見たら気を失うか、よくても嘔吐してしまうくらいなのに、アキ君はよく耐えてくれたと思う。
この子なりの優しさなのだろうか。
アキ君は何も言わずに着ていた服を脱いで、私の顔を覆うようにグルグル巻きにした。
「……悪かった。俺のせいでアンタが」
「いいよ。それよりこれ、ありがとうね。寒くない?」
「俺は雪国出身だから、これくらいが丁度いい」
上半身半裸のアキ君は、なんでもないようにスタスタと歩いていった。
「助けてくれてありがとう。……姫野……先輩」
思わず笑みが溢れてしまった。
可愛いところもあるじゃん。
私は小走りで後ろから先を歩くアキ君に追いつき、肩組みをした。
「……なんだ」
「私たち、仲良くやっていけそうだね」
「……さぁな」
頭に巻かれた服からは、アキ君の汗の匂いがした。
【第二話に続く】
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